12年前の菊花賞は葬儀場で見ていました。
前夜は当時勤めていた薬局の懇親会。
携帯が圏外の地下でみんなでワイワイ飲んで、さあ2軒目に行こうと地上に出て携帯を確認したところ
おびただしい数の不在着信が家族から入っていました。
「もしかして・・・」
と思い、慌てて電話すると、入院中の祖父が亡くなったとの報せでした。
かねてより「葬儀は身内と親しい人だけでこじんまりとやってほしい」と希望していた祖父。
親族が寝泊まりするフロアの一角、リビング的な広間に祭壇を設けてもらっての葬儀となりました。
そうしてお通夜を数時間後に控えた中、祭壇の正面に置かれたテレビで見たのがビッグウィークが勝った菊花賞。
いまやトップジョッキーとしての地位を確固たるものとした川田将雅騎手のGI初制覇の瞬間でした。
直線では西日に照らされた3歳馬たちが長い影を作りながら最後の一冠を目指し、力の限りを尽くして走っている姿が今でも目に焼き付いています。
それと同時に思い出されたのは祖父と馬にまつわる記憶。
ギャンブル嫌いな祖父に遠慮して、毎週末に会いに行った時には
どれだけ競馬中継を見たくても我慢していたのが
ふと関テレにチャンネルが変わった瞬間の目の輝きを祖父は見逃さなかったのか
ある日を境に祖父がザッピングするふりをして午後3時を回ると関テレの競馬中継をつけてくれるようになりました。
ある時は、第二次世界大戦下で招集された時に
馬に乗ったり世話をする係を任されていたことがある、という経歴も話してくれました。
「陽子ちゃんが好きなように生きたらいいんやで」
という言葉は、薬局勤めを続けるか競馬の世界に身を投じるかを悩んでいた時に背中を押してくれました。
あれから12年。
命日の今日、13回忌の塔婆をお墓に立ててきました。
時が経つのはあっという間のような、まだ12年しか経っていなかったのかという気持ちのような。
淀と仁川、舞台は違えど、今日の菊花賞はビッグウィークのことを思い出しながら見ていました。