東京競馬場で行われた今年最初のGⅠ・フェブラリーSを
制覇したのはモズアスコットでした。
2018年の安田記念を制覇した馬が
ダートGⅠも制覇して“二刀流”となりました。
前走・根岸Sを初ダートながら快勝してここへ駒を進めてきましたが
矢作芳人調教師は
「年齢を重ねて多少変わってきた部分があって
以前はスピード勝負で芝のマイルがいいと思っていましたが
最近は体形的にもパワー型になったと自分なりには分析しています」と。
クリストフ・ルメール騎手も
「モズアスコットはダートでまた強い馬になりました」
と笑顔。
「芝・ダート問わず本格的な二刀流として
この馬を育てたい」(矢作調教師)
とのことですから、今後ますます楽しみです。
さて、個人的に熱く語りたいのは2着ケイティブレイブ、そして鞍上・長岡禎仁騎手のこと。
最低人気・単勝142.6倍の馬と、GⅠ初騎乗ジョッキーのコンビが
熱い戦いを見せてくれました。
美浦所属でデビューするも
度重なる落馬負傷で戦列を離れ
特に2017年4月の落馬では腎臓破裂で半年近くの休養を余儀なくされた長岡騎手。
これまでの復帰時とは違い
長期の戦線離脱により騎乗馬が手元から離れてしまい
ゼロからのスタートになってしまいました。
「美浦でも支えてくださった方々がいたので
かなり勇気がいりました。
でも、“やらない後悔”よりも“やる後悔”の方がいいと思って」
と、このタイミングで栗東に拠点を移しました。
その頃から調教に乗っていたのがケイティブレイブ。
苦労してきたぶん、手を差し伸べてくれる人たちのありがたみを深く感じていて
「レースで乗らない馬でも、調教で一生懸命乗ることで
少しでも恩返しができるように」
と考えていました。
だから、ケイティブレイブがドバイで開腹手術を乗り越えて
昨年11月、浦和記念で復活V(鞍上:御神本訓史騎手)を遂げた時は
「調教に僕も乗っていたので余計に嬉しかったです。
ちょっとずつ結果を出さないと、恩返しができないと思っているので」
と、ケイティブレイブの活躍を喜んでいました。
そんな長岡騎手に突如巡ってきたGⅠ騎乗のチャンス。
関係者への感謝の言葉を何度も繰り返す彼に
先週水曜日、栗東トレセンでこんなことを聞いてみました。
「ケイティブレイブは逃げても差しても勝ったことがありますが
現時点ではどんなレースをイメージしていますか?」
返ってきた答えはこう。
「どちらでも競馬ができるようになりましたよね」
「では、レースのイメージは固定せずに臨みますか?」
「そうですね。まずは馬がやる気を出せる、走りたいと思えるような競馬をしたいと思っています」
今日は好スタートを決めたケイティブレイブと長岡騎手。
差しても勝っているとはいえ、逃げ・先行で圧倒的に結果を残してきた同馬ですが
パトロールビデオを見ると
スッと控えてすぐに内に切り込んでいこうとしていました。
戦前、オーナーや調教師との作戦もあったでしょうし
すでにこの時点で、馬のリズムで脚を溜めて乗ろうとしていたことが窺えます。
控えつつもリズムよく道中を運び、直線で外に持ち出した時には
「勝てるんじゃないかって思う手応えでした」
と、外から脚を伸ばしました。
残念ながら2馬身半、モズアスコットには届かず
「勝ちたかったです」
と顔をクシャクシャにして悔しがる表情も見せました。
一方で、出迎えた瀧本オーナー一団は
「よくやった!
2着だけど、勝ったも同然ですよ」
と笑顔で引き揚げてきたケイティブレイブと長岡騎手を出迎えました。
「(ケイティ)ブレイブがやる気を出してくれたのが結果につながりました。
最近はしまいに頑張れていないイメージだったので
手応えを残して直線に向かうイメージでした」
と長岡騎手。
レースを終えて一段落して、改めてGⅠ初騎乗をこう振り返りました。
「緊張はなくて、冷静に乗れました。
調教にずっと乗せていただいていたので、馬を信じるだけでした。
瀧本オーナーと杉山先生が
『思い切って乗っていいよ』とおっしゃってくださったことも大きいです。
レースで初めて跨ったブレイブは気合いが入っていて
調教とは違う背中の感じでした」
勝負師にとって2着は悔しいことでしょう。
しかし、GⅠ初騎乗で注目を集めた一戦。
そこで前評価以上の結果を残したことで大きな爪痕を残すことができました。
「同期で一番最後のGⅠ初騎乗なんです」
トレセンでの取材の最後
ポツリとそう呟いていましたが
誰よりも輝いたGⅠ初騎乗だったのではないでしょうか。