『牛若丸』
京の五条の橋の上
大のおとこの弁慶は
長い薙刀ふりあげて
牛若めがけて切りかかる
牛若丸は飛び退いて
持った扇を投げつけて
来い来い来いと欄干の
上へあがって手を叩く
前やうしろや右左
ここと思えば又あちら
燕のような早業に
鬼の弁慶あやまった
幼くして比叡山に入山するが、根っからの暴れん坊でついに寺を出奔した武蔵坊弁慶。
やがて1000本の刀を手に入れることを思いついて武者狩りを繰り返し、999本まで刀を集めた時に、1000人目として牛若丸(義経)との運命的な出会いを五条の橋の上ではたす事となる。
もし、これが史実ならばいい話しだし、創作とすればなかなかどうして面白い事を考える人がいたと云う事になる。
ここと思えばまたあちらに翻弄されたのは、どうやら武蔵坊弁慶だけではないようで。
今年初めてのG1『フェブラリーS』。「普通に買っても当たらねえ。ヤケのヤンパチ日焼けの茄子で一丁3連系を買ってみっか。しかし3連単は流石に買目が多くなり過ぎる。3連複で行こう。内からルメ公のゴールドドリーム、弘平のサクセスエナジー、豊のインティ、圭太のサンライズノヴァ、七菜子のコパノキッキング、デムーロのオメガパフューム。6頭ボックス20点張りで一目2千と5百だ。トリガミも有り有りだが、ゴールドドリームが出遅れて届かずなら、ズンない配当になっぞ」と結論付けたマスターだったが………。
「4コーナーから直線!先頭はインティ!まだまだリードが2馬身から3馬身ある!残り400!後続を振り切りにかかる!2番手はサンライズソア!内を狙ってサクセスエナジー!」
「弘平!突っ込め!」マスター、買っている人気薄のサクセスエナジーに一声。
「モーニン!ユラノトも来ている!外からゴールドドリームが追い込んで来る!その外にワンダーリーデル!コパノキッキングはまだ中段!残り200を切った!インティ止まらない!リードを2馬身!3馬身!ゴールドドリームが追い縋る!インティ粘る!粘る!インティだ!インティ!先頭でゴールイン」
1着のインティと2着のゴールドドリームは当然買っているが、3着のユラノトを軽視したマスターの馬券はまたまたゴミと化した。
モニターを見て無言のマスターに、「3連複なんて買わずに、普通に枠連を買ってたら大本線だったのに」。
傷口に塩を擦り込むような発言は、熊本天草出身○原さん。
回し蹴りの一つも飛ぶかと思いきや、「○原さんの云う通りだ。やれ、枠連だ、単複だ、馬連だで買っても当たらねえと、3連複になんて手を出した己の愚かさが情けねぇ。」
「運気が下がってるんですかね。あんまり気にしない方が。ここ3週やられてますがあくまでも予算内。無茶苦茶に買ってる訳じゃあないんですから、来週辺りはいい目が出ますよ。シャブシャブでも温野○に食べに行きますか?僕も負けてますがご馳走します」と競馬友達のK君。
「気持ちだけ貰っとく、今日は帰る」
「…………………..」
馬券が当たれば自分の手柄、外れれば騎手や馬をこき下ろす。
どちらにしてもいつもは賑やかなマスターが、券種選択で、武蔵坊弁慶ばりに翻弄されてフラフラだ。
そう云えば、武蔵坊弁慶にはもう一つ逸話が。
義経が衣川の館を攻められた際、並み居る敵兵を次々倒すが、ついには無数の矢を受けて薙刀を杖にして仁王立ちのまま息絶えたと伝えられている。
世に云う『弁慶の立ち往生』
まさかそんな事にはならないとは思うが………..マスターのハートは冬のど真ん中である。