北新地競馬交友録

一騎打ち

スポーツの神様は時として、残酷な仕打ちを平気でする事がある。
柔ちゃん事、柔道女子48キロ級の田村亮子ちゃんがアトランタオリンピックの決勝で、朝鮮民主義共和国ケー・スンヒにまさかの敗戦。
2大会連続銀メダルで連勝も84でストップした。
テレビのモニターからは、伏兵のケー・スンヒに敗れ呆然と天井を見つめているシーンが流し出されていた。

アトランタオリンピック、48キロ級は無双柔ちゃんと、キューバのサボンとの一騎打ちとの下馬評。
そのサボンに準決勝に一本勝ちし、ニホリカ人の全てが「これで金メダルは貰った!」と確信していた。
と云うのも、逆ブロックから決勝に上がってくるであろう、スペインのソレルや、フランスのニシロでは柔ちゃんに歯が立たないのは、過去の対戦からハッキリしていたからである。

ところが、その逆ブロックから勝ち上がって来たのは無名の16歳。
執拗に身体を密着して絡みつかれ、得意の大外刈りや内股を繰り出すタイミングがないままの敗戦。
試合後のインタビューで、 「私も人間ですから。人間でよかったと思う部分もあります。人間だな、と思いました」
「応援する人たちがテレビの前でたくさんのパワーを送ってくれました。一番思うのは、期待された皆さんに悪いな、と……。正直、何と言ったらいいのでしょう」

インタビュアーの、「謝る必要なんかないですよ」に、柔ちゃんの両目から二筋の涙がスーッとこぼれ落ちた。
実質上の決勝戦であるサボンとの一騎打ちにそれこそ死に物狂いで勝ったと云うのに…….マジカル!スポーツの神様は残酷なのである。

「クラシックの足音が聞こえて来たってか?外は○○○ブルブルだが、この『きさらぎ賞』は確かに強烈な2頭が出る。『新馬』『ラジオたんぱ杯』を連続でぶっこぬいて2連勝無敗、ペリ公のロイヤルタッチ。『新馬』を圧勝、『ラジオたんぱ杯』ではロイヤルタッチの後塵を拝したが、関係者の間では先々はコッチの方が上と評判、豊のダンスインザダーク。後はよついのドングリと、純一のエイシンガイモン辺りだろうが役者が違い過ぎる。云うなればロイヤルタッチとダンスインザダーク以外はオリンピック精神。参加する事に意義があるってなもんョ。お父さん!パドックの映像なんか見て何の意味があるんない?悩む事なんかな〜んもあるまいが。ロイヤルタッチとダンスインザダークの一騎打ちで馬連1点勝負!ポッケの塵まで張っつけてもいい。俺ぁ〜自信のひとズグ勝負だっちゅ〜の」
長講釈はマスターの昔からの悪い癖である。

「第4コーナーを回って直線!先頭はドングリ!先頭はドングリ!2番手エイシンガイモン!ロイヤルタッチが外から!大外ナムライナズマ!ダンスインザダークは内!先頭はエイシンガイモン!ロイヤルタッチ来た!ロイヤルタッチ来た!内からダンスインザダーク!ダンスインザダーク!ロイヤルタッチ!ダンスインザダーク!ロイヤルタッチ!ダンスインザダーク!譲らないこの2頭!残り100!ロイヤルタッチか!ダンスインザダークか!ロイヤルタッチだ!オリビエ・ペリエ!無傷の3連勝!ロイヤルタッチです!皐月賞!ダービーへ勝ち名乗り!ロイヤルタッチであります」
1着 ロイヤルタッチ オリビエ・ペリエJ
2着 ダンスインザダーク 武豊J
3着 エイシンガイモン 芹沢純一J
馬連 3ー9 240円

「お父さん!俺ぁ〜痺れたぜ。外目をグイグイ伸び来たルメ公のロイヤルタッチも凄ぇが、内目2頭の間から伸びて来た豊のダンスインザダークは半端なく強ぇ。脚だけじゃねえ!勝負根性も強烈だ。今年のクラシックはこの2頭と、『朝日杯3歳S』でいいところを見せたバブルガムフェローとの3強で決まる。10年に1度の勝負を掛けれる年だ。こらから銭作りに忙しいぞ!あ〜忙し!あ〜忙し!吉本新喜劇の谷しげるだっちゅうの。どの馬券を買うかじゃねえ!どんだけ馬券を買えるかの勝負になるってこった。お父さんも5千円ばかしの馬券持って震えてる場合じゃねえだろう。息子に新聞配達させても銭を作りないや」
「………………..」

その後、『皐月賞』ではロイヤルタッチの騎乗予定だった蛯名Jが騎乗停止中で騎乗できず、南井Jが騎乗。
『弥生賞』を勝利したダンスインザダークが熱発で、『スプリングステークス』を勝利したバブルガムフェローが骨折でともに出走を回避。
押し出される形でロイヤルタッチが1番人気になったが、四位Jのイシノサンデーを捕らえ切れず2着に惜敗する事となる。

柔ちゃんが、サボンとの一騎打ちを制するも、伏兵ケー・スンヒに敗れ、ロイヤルタッチがダンスインザダークとの一騎打ちを制するも、イシノサンデーに敗れる事となる。
1996年はそんな年だったのである。