北新地競馬交友録

悪代官は逃げ切れなかったが

「越後屋~お主も悪よのう・・・いえいえ、お代官様ほどでは・・・ワッハッハ」
時代劇でお馴染みの台詞なのだが……。

通常国会が1月28日に召集され、6月26日までの150日間の会期で始まる。
以前は、その厳つい顔から政界の悪代官と云われていた、第76代衆院議長、大島理森じいちゃんの評判が昨今やたらいい。
去年、通常国会の終了後、厚生労働省の労働時間調査での不適切データ問題に言及し、加計学園問題や前財務次官のセクハラ問題を念頭に「国民に大いなる不信感を引き起こした。個々の関係者の一過性の問題として済ませずに、深刻に受け止めていただきたい」と強調。

更に、行政を監視する立場にある立法府の責任にも触れ「国民の負託に応える行政監視活動をしてきたか検証の余地がある」と回顧。
今後の国会の在り方として「憲法や関係法で与えられた、国会としての正当かつ強力な調査権の一層の活用を心掛けるべきだ」と、与野党に議会制度協議会や議院運営委員会の場で議論するよう求めたのである。
我らが安倍ちゃんのやりたい放題に、釘を指すなんて、並の国会議員に出来る事ではあるまい。

そんなこんなで、大島じいちゃんはいつの間にか、悪代官から大岡越前に転身したが、根っからの悪代官と云えば、故佐藤孝行議員。
運輸政務次官在職中の1972年に、全日空の若狭得治会長から、佐藤が作成中の大型旅客機国内線導入の運輸大臣通達案で全日空に有利な内容を盛り込むよう請託を受け、その謝礼として現金200万円を受領したとして1976年東京地検によって受託収賄罪で逮捕。
前月には、田中角栄元首相も逮捕されており、ロッキード事件の『全日空ルート』の中心人物と目された。
同年12月の総選挙では当然の事ながら落選。

公判においては無罪を主張したが、1982年の東京地裁判決、1986年の東京高裁判決ともに有罪。
上告を断念したため、懲役2年執行猶予3年、追徴金200万円の有罪判決が確定で罪人となった。
並の人間ならばそれでお終いだが、執行猶予期間終了後自民党に復党。
1996年の第41回衆議院議員総選挙では、小選挙区制導入で新設された北海道8区から立候補。
民主党現職で大蔵政務次官の鉢呂吉雄に敗北するも、比例復活で「これぐらいにしといてやる」と胸を張る始末。

1997年発足の第2次橋本改造内閣では、フィクサー中曽根の強い後押しもあり、政権の目玉政策である中央省庁再編を担当する総務庁長官兼中央省庁改革等担当大臣として念願の初入閣。
就任記者会見では、「過ぎたるは及ばざるがごとし」と過去の罪状への質問をはぐらかしたが、世論の批判が収まらず、わずか12日間で辞任する事となった。
その経歴・行状と、いかにも悪そうなご面相からついたあだ名が『悪代官』。

念願の入閣を果たし、心の中では、「俺は本当は悪くないんだ、文句あっか」で逃げ切りたかったのだろうが、当時のニホリカ人はまだまともなオツムがあり、罪にほっかむりをしての逃げ切りを許さなかったのである。

「すげぇ面子が揃ったな〜、この『シルクロードS』はョ。もちろん1200なら最強の呼び声高い、成貴のフラワーパークが軸だが、洋の巨漢ヒシアケボノ、『スプリンターズS』2着の実績馬洋行のビコーペガサス、アンパンマン広喜のシンコウキング、熊ちゃんから守に乗り替わりヤマニンパラダイス。GⅢでこったら馬が揃うなんてまずあるめえが。フラワーパークの単勝が1.4ですってか?あたしまえだ2Kg重くなっちゃ〜いるが、現実に去年このレースを勝ってんだからョ。お父さん!フラワーパークからヒシアケボノ、ビコーペガサス、シンコウキング、ヤマニンパラダイスに流しゃ〜自動的に当たる。このレースは儲け云々じゃねえ、どんな展開になるかを楽しむレースだ。さ〜張った!張った!張って悪ぃのは親父の○ゲ頭だっちゅ〜の」
聞かれてもいないのに長講釈はマスターの悪い癖なのではあるが………。

「第4コーナーから直線!先頭はエイシンバーリン!フラワーパークが2番手!後続からは白いシャドーロール!ヒシアケボノ外から突っ込んで来る!シンコウキングも来た」
「田原!馬鹿野郎!何やってんだ!交わせ!こんにゃろう!交わせって」
ポンと先手を取って逃げ切り態勢の南井克巳Jのエイシンバーリンに、追いつくどころか差を広げられるフラワーパークに怒声を浴びせるマスター。
「エイシンバーリン先頭!エイシンバーリン先頭!フラワーパーク粘る!外からシンコウキング!橋本広喜シンコウキング!ビコーペガサスも突っ込んで来る!先頭はエイシンバーリン!フラワーパーク、シンコウキング!ビコーペガサス3頭並んでの2着争い!エイシンバーリン!ゴールイン。勝ち時計1.06.9日本レコードです!」

1着 エイシンバーリン 南井克巳J
2着 ビコーペガサス 上村洋行J
3着 シンコウキング 橋本広喜J
4着 フラワーパーク 田原成貴J
断トツ1番人気のフラワーパークが飛んで、馬連が19830円と堂々の万馬券決着となった。
「成貴の野郎!オツムはスッカラカンか、テメエが逃げなきゃいけねえのに、楽に克己に行かせるもんだからあったら事になんだョ。しかし、エイシンバーリンには恐れ入谷の鬼子母神だ。過去の成績からてっきり1600の馬だとバッカ思ってた。無茶苦茶強ぇじゃん。しかも6歳牝馬でプラス10なんだもな〜、こりゃ買えないぜ。え?フラワーパークから流して損したってか?お父さん!馬券は自己責任だ!文句があるなら成貴に云や〜いいだろう!成貴にョ〜」と開き直るんだから恥を知らない人間は強い。

『悪代官』故佐藤孝行議員が、国民の大合唱で逃げ切る事が出来ず辞任。
片やエイシンバーリンは単勝1.4倍のフラワーパークの馬券を握って、顔面蒼白の馬券愛好家達を嘲笑うかのように、日本レコードでの逃げ切り勝ち。
どちらも1997年の事である。