北新地競馬交友録

逃亡者

『スーツ』の次は『グッドワイフ』と来たか!はドラマの話し。
漫画や小説を原作にして、ジャリタレを跳んだり、はねたりさせるしか能の無くなってしまった日本のドラマ制作。
それもネタ切れで、もっと安直に楽をして視聴率を取ろうと、USAの大ヒットテレビドラマシリーズを恥ずかしげもなくリメイクして垂れ流している。
『スーツ』や『グッドワイフ』のUSA版を見た事がある人なら、あまりの落差に苦笑を禁じ得ないのは、共通の感想であろう。
(常盤貴子ちゃんは美人だがそう云う問題ではない)

USAのドラマを始めて見たのは7歳の時である。
全米で視聴率50%を超え、伝説ともなっている『逃亡者』
妻殺しの濡れ衣を着せられ死刑を宣告された医師リチャード・キンブルが、警察の追跡を逃れながら、真犯人であろう片腕の男を探し求めて全米を旅する物語だ。
キッズ心に、キンブルがいつ捕まるか、いつ捕まるかと毎週ハラハラドキドキ。
逃亡の旅の中で出会う心ある人々や、間一髪の偶然に助けられて、キンブルは逃げまくった。
『逃亡者』の放送が終了した時、今風に云うなら『逃亡者ロス』に8歳のキッズがなったのだから、いかに素晴らしいドラマだったかは明らかであろう。

時は流れて、その『逃亡者』がシネマで公開された。
主役のキンブルにハリソン・フォード、キンブルを蛇も顔負けの執念で追いかけるジェラード刑事にトミーリー・ジョーンズ。
ドラマが静ならシネマは動。
派手なアクションは少々やり過ぎの感はあったが充分に楽しめた。
ハリソン・フォードは無条件でハマり役だが、ニホリカでは缶コーヒーのCFのイメージが強い、トミーリー・ジョーンズもなかなかどうして。
息をもつかせぬ2時間、ハリソン・フォードがピカピカに輝いたシネマ、それが『逃亡者』であった。

「『アメリカジョッキー C』頭数は少くねえが、いい面子が揃ったな〜。去年の暮れの『有馬記念』で、泰誠のメジロパーマーに技を決められたがガッチリ2着を死守。秀のレガシーワールドなら、地球を3周しても2着を外すこたぁ〜ねえョ。相手も絞れる。『アルゼンチン共和国杯』で2着、正月の『中山金杯』で4着、ミスターシービー産駒の優等生、正義のシャコーグレイド。もう一頭は『ダービー』で2着、『菊花賞』をぶっこ抜いた。マルゼンスキー産駒の最高傑作、横典のレオダーバン。脚元がしっかりしてれば、これまでどんだけ勝ったか判らねえぜ、陣営は『有馬記念』を一発叩いて、ここでの復活に賭けている。お父さん、新聞に馬体重なんて書き込む必要なんてねえョ。レガシーワールドからこの2点でお帳面のレースだ」
聞かれてもいないのに、長講釈はマスターの昔からの悪い癖である。

「第4コーナーから直線!先頭はホワイトストーン!柴田政人だ!レガシーワールド遅れた!レガシーワールド遅れた!2番手の位置!200を切った!」
「秀!何をやっとるんなら!」
まさかのホワイトストーンの逃げ作戦、4コーナーのカーブ、コーナーワークで離され焦る小谷内 Jに罵声を浴びせるマスター。
「ホワイトストーン大きく引き離す!2番手レガシーワールド踏ん張るが、3番手からイタリアンカラー!大外を突いてムービースター!ホワイトストーン逃げ込み態勢濃厚!100を切る!ホワイトストーン逃げる!リードは4馬身!2番手はレガシーワールド!ホワイトストーン!久々の勝ち星でゴールイン!」
1着 ホワイトストーン 柴田政人 J
2着 レガシーワールド 小谷内秀 J
3着 ブリザード 根本康弘 J

「なんでぇこのレースは、政人も逃げるなら逃げると云っとけョ。ホワイトストーンなんて今まで逃げた事ねえだろう。番手確保で虎視眈眈のはずのレガシーワールドが、楽々突き放されてんだからどうしようもねえョ。正義も横典も情けねえったらありゃしない。雨だぜ!雨。雨が降る降る八代亜紀。前々の位置を取らなきゃダチカンだろうが。ド下手野郎!謝れ!全国1千万人の馬券愛好家に謝れってんだ。矢野のテキも奥平のテキもこんなの乗してたら馬主さんに愛想尽かされるぜ。大体が……..」
絶対の自信があって、結構な金額を張り込んでいた分、コキおろしが激しいが後の祭りである。

柴田政人Jのエスコートで、芦毛のホワイトストーンが見事に逃げ切った。
誰が云ったか、付いた通り名が『白の逃亡者』
ハリソン・フォードが画面狭しと逃げまくり、ホワイトストーンが雨の中山競馬場を堂々と逃げ切ったのは1993年の事。
もう26年も前の話しである。