毎週日曜日のお楽しみNHK大河ドラマ。
『西郷どん』からバトンを引き継いだのは、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』。
日本が初めて夏季オリンピックに参加した1912年のストックホルムオリンピックから、1964年の東京オリンピック開催までの52年間の歴史を章立てに分けて構成されている。
物語は五代目古今亭志ん生が語る架空の落語『オリムピック噺』の語りにのせて進行するという形式で、その狂言回し役にビートたけし。
大河ドラマと云えば、歴史上の偉人のキッズ時代がまず第一回と云うのかお約束だから、古今亭志ん生の乗っているタクシーの横を、前半の主役である金栗四三役の中村勘九郎が走り抜けていくオープニングには少し驚かされた。
その第一回に出て来るのが、『天狗倶楽部』と云うスポーツ愛好家のサークルで、戦前の日本に実在したスポーツ社交団体。
黎明期のアマチュアスポーツ、特に野球と相撲の振興に努め、後に野球殿堂入りする人物を5人輩出している他、日本初の学生相撲大会を開催するなどしていたようである。
「テング、テング、テンテング、テテンノグー。 奮え、奮え、天狗!」と能天気にエールを送る様は、多くの犠牲の上に成し遂げられた明治維新などは知ったことか。
いかにも富裕層やその小倅どもと云った風情。
まだまだ貧しかったニホリカ全体とは完全に遊離した人間の集団である。
もっとも、このような人間達が新しい文化や、芸術を作っていくのは古今東西よくある話しで、格段目くじらを立てる事はないのだが………..。
天狗と云えば、お山に住む無双を指すが、『天狗になっている』と云えば、あまりいい意味ではない。
「いい気になって自慢する。得意になる。うぬぼれる」
お調子者はどの時代にもいるようで……。
NHK大河『いだてん〜東京オリムピック噺〜』が放送されたその日曜日。
「ダミだ!将雅に交わされた!」と悲鳴を上げたのは、吹けば飛ぶようなBARを大阪北新地で稼業としているマスターである。
「マスター、昨日の競馬始め『京都金杯』の競馬場はどうでした」は競馬友達のK君。
「ああ、日頃からお世話になっている京都馬主協会会員さんの新馬を応援するのが目的だったが、さすが新年一発目だがね。三歩あるきゃ〜馬主さんと遭遇して、おめでとう!おめでとうなんだから、俺も長い間競馬の世界の片隅でゴソゴソやってるって事だな。20人までは数えていたが後は数えちゃいねえョ。それはいいんだが、見渡しゃ〜余裕のある人間ばっか。山ほどいている人間の中でてめえが一等ボンビーなのは確実だから、あんまし居心地がいいとは云えねえな。その点ウインズはいいやね。ヒエラルキの最底辺からいきなりてっぺんに上がった気分だ。落ち着くぜ」と一くさり。
場違いな馬主席よりは、庶民の馬券愛好家達が群れ集うウインズ万歳と云ったところであろう。
「今日のメインは『シンザン記念』じゃねえぞ。今朝も携帯で云ったが、京都9R『寿ステークス』で、ケイティクレバーを狙い撃ちのリンダ山本ョ。前走、熱血コバテツからの乗り替わり『サンタクロースステークス』で見所があった。複勝に10万、単勝に昨日の勝ち9千でいてこます。真一郎もここいらで漢にならなきゃ〜、今年は馬が回って来ねえ」と腕まくり。
直前になって除外が2頭も出ての6頭立てとなったが、「配当が低くなりますね」の熊本天草出身○原さんに、「だからお宅は盆暗と云われるんだ。普通だったら2着までしかねえ複勝が3着まで出るんだろ。この6頭なら真一郎のケイティクレバーが3着以下になる事なんざ〜100回走って1回あるかなしかだ。元本保証されてんだから、こったら美味しいレースはねえだろうが。真一郎と将雅のマイハートビートの一騎打ちだ」とひとっぱたきである。
「第4コーナーから直線!先頭のケイティクレバーをケンフォファバルトが捉えにかかる!間からダノンアイリス!外から一気にマイハートビート!」
「ダミだ!将雅に交わされた!」とマスターの悲痛な叫びが木霊する、神戸元町ウインズ3時前。
「マイハートビート首から身体半分前に出た!内からケイティクレバーが盛り返す!また並んだ!並んだ!3番手争いは外からダノンアイリス!盛り返した!ケイティクレバー!ケイティクレバー!首から半分出た!ケイティクレバー先頭でゴールイン!」
1着 ケイティクレバー 秋山真一郎J
2着 マイハートビート 川田将雅J
3着 ダノンアイリス 浜中俊J
「真一郎の野郎やるじゃねえか!インからの差し返し。馬の力もあるが、屋根も余程の胆力がなきゃ〜ああは行かねえぞ。正月早々いいもんを見せて貰った。複勝は?え!120円も付いてんじゃん。こんな事なら播州信用金庫から100万ばかし借りて打ち込みゃ〜良かった」と、出来もしない事を真面目な顔をして云うんだから恥を知らない人間は強い。
「マスターさん、これで『有馬記念』の前日阪神8Rサマーサプライズとイベリアの枠連、『有馬記念』ブラストワンピースとレイデオロの枠連、最終日ロードアルペジオとマイネルバサラの枠連、昨日のヤマニンアンプリメとスズカコーズラインの枠連、そしてケイティクレバーの単複。なんと!5連勝です」と○原さん。
「昨日は9千円しか儲かってませんけどね」とK君。
「Kよ〜やだね〜男の嫉妬はよ〜。まあなんちゅうか本中華。今の俺は盆が透けて見えるって〜のかな。もっともマンジこいてられるのも今だけョ。一旦外れだしたらどうあがいても当たりから絶縁状を叩きつけられるのが競馬だ。伊達に40年間で天文学的損をこいてる訳じゃねえ。去年なんてどうだい、張れども、張れどもどうする事もナッシングだったじゃねえか。俺ぁ絶対自慢しねえョ、まあ5連勝だけどな!5連勝!」
「マスター、それ自慢してますよ」
「5連勝!神戸元町で一等安い居酒屋松○で新年会でもすっか!」
「○原喜んで!一人鍋頼んでいいですか?」
「メニュー、上から下までいったらんかい」
「…………..ほんと馬鹿なんだから」
マスター、精々、今は天狗しときゃいいんじゃないの、どうせその内とんでない事になるんだからさ(`_´)ゞ