北新地競馬交友録

棄てられて

NHKと云うのは、たまにとんでもないドラマを作る。
古いところでは『おしん』、昨今の時勢を先取りした『ハゲタカ』、普通の主婦がお金に翻弄され破滅へ真っしぐら『紙の月』、母親と娘の剣呑な関係『お母さん、娘をやめていいですか?』、壇れいさんが輝いた『八日目の蝉』、格差社会とは『下流の宴』etc。
そんなNHKでとびきりに凄いドラマがオンエア中である。
『昭和元禄 落語心中』だ。

昭和初期、落語の世界に入った八雲と助六。
2人は固い友情で結ばれているのだが、天才的な助六の芸に憧れ、嫉妬し、追いつこうともがく八雲の姿に、見ているこちらの胸が締め付けられる。
戦前、戦中、戦後の昭和を鮮やかに、そして切なく。
八雲を演じる岡田将生、助六を演じる山崎育三郎この2人は、これから大変な役者になるのは間違いない。
その岡田君がナレーションの中で発する定番の台詞、『あっしはまた棄てられました』には震えが来るなるなりである。

「マスター、おはようございます。昨日の『京都2歳S』には驚きましたね。あんな事があるなんて」は競馬友達のK君。
「へへ!漫画みてえな話しだな。モレイラのクラージュゲリエ、馬体重がプラス15キロならケン、それ以下なら目つぶって買うと云ってたら、ニャンと!プラス14だってョ。それで勝っちまうんだからサンキューベラマッチョとしか云えま〜が。何でも直前、単勝に1000万突っ込んだ馬鹿がいるとかで280しか付かなかったが上等だろう。2万買って5万と6千!これで俺の腹は決まった!」

「何の事ですか?」
「当然『ジャパンC』の事ョ。アーモンドアイは確かに強ぇが1.5倍だせ。ルメールが、『この馬は日本一強いです』なんてラッパを吹いたのもあるが、確かに過去のレースを見ると物が違う。バット!1.5とはよう〜。昨日、栗東から電話があった。」
「え?どなたからですか?」
「どなた?どなたじゃねえ。馬からだ馬」
「…………………」

「マスター、僕は悔しいです。少し調子が良くないからって、フランスまで遠征した仲のルメールさんに棄てられて。あんな小娘の何処がいいんですか?男と男の友情はどこに行ってしまったんですかね。『有馬記念』でキタサンブラックをやっつけたのも、ルメールさんに喜んで貰いたかったからなのに。こんな悔しい思いをするなんて。死んでもアーモンドアイには負けません」
「それ、何の妄想ですか?」

「ホットケーキ!サトノダイヤモンドの気持ちはよ〜く判る!ねるとん紅鯨団。アーモンドアイが真ん中の枠ならどうしようもねえが1枠1番は厄だ。しかもその外3枠3番にサトノダイヤモンド。屋根は世界のマジックマン。そう易々と勝たせる訳がねえ。男の嫉妬を舐めたらいかんぜョ!キセキも怖え〜が、キセキてぇのは一回こっきりと相場が決まってらぁ〜ね。今回も3着だろう。発表!サトノダイヤモンドの単勝に昨日の儲け3万と6千!複勝に10万。屋根がモレイラ、厩舎が池江泰寿たぁ〜昨日の『京都2歳S』と同じ組み合わせだっちゅ〜の」と結論付けた。

『昭和元禄 落語心中』の岡田君じゃないが、「また棄てられました」とならない様に頑張れサトノダイヤモンド!