北新地競馬交友録

拘ったものは

17日のさいたま公演でドタキャン騒動を起こした歌手、ジュリー事沢田研二。

報道陣の取材に応じ、9000人と聞かされていた観客数が実際には7000人だったとし、「客席がスカスカの状態でやるのは酷なこと。僕にも意地がある」と公演を中止した理由を明かした。
これに対して、一般人だけでなく、芸能人からも賛否両論。
出しゃばりのデビ夫人や挙げ句の果てには、「ナハハ!」のせんだみつおまで乱入する騒ぎとなっている。
 
それにしても今の沢田研二を見ると、思わず目を背けたくなる。
それこそ若い時は、水も滴るいい男。
ミリオンヒットの連発で、ピカピカに輝いていた。
それがどうだ、醜く太った身体にヤギのような顎髭。
あくまで想像の範囲だが、それを一番自覚しているのは、他ならぬ沢田研二ではないだろうか。
だからこそ観客数に拘ったと考えるのは、あながち穿った見方ではあるまい。
 
観客数と聞いて頭に浮かぶのは、稀代のルポルタージュ作家、沢木耕太郎の『王の闇』に収録されている『王であれ、道化であれ』。
モハメド・アリ最大のライバルであった元世界ヘビー級チャンピオン、ジョー•フレイジャーが、モハメド・アリが、スピンクスからの王座奪還を目指して行われる『バトル・オブ・ニューオリンズ』のその日。ボクシングを引退し、ニューオリンズの場末のナイトクラブでショーに出ているのだ。
殆ど誰もいないクラブで、下手な歌を歌うジョー•フレイジャー。
数少ない客で、まともに聞いている人間などいるはずもない。
圧倒的に不利な状況から15回に左フック1発で試合をひっくり返した、NYマジソンスクエアガーデンでの『世紀の一戦』
お互い死力の限りを尽くし、14回、ジョー•フレイジャーの意思に反してセコンドのエディ・ファッチが棄権を申し出た『スリラー•イン•マニラ』
そしてフォアマンに6度倒されながら、前進を決して止めようとはしなかった『キングストンの惨劇』
とにかく前に出る事に拘り続けたジョー•フレイジャーに付いた渾名がスモーキン•ジョー。
シュシュポポ!と煙りを吹き上げながら爆走する機関車と云う訳だ。
そんなジョー•フレイジャーが、前進する事への拘りを棄てた時から始まった転落。
沢木耕太郎は、それを切ない程伝えてくれたのである。
 
「マスター、おはようございます。土曜日の8Rはダメでしたね。まさか6番人気、今年まだ8勝の田中健Jが、プティットクルールであんな強い競馬をするとは」
「ああ、歩のない将棋は負け将棋。気の無いレースはゴミ馬券てなところだろう。ナムラマルが真一郎から啓介に乗り替わった時、『いただき!高め来い』なんて不謹慎な事を考えたバチが当たったに違いねぇ」と至って冷静なマスター。
それも一目5千円でトータル1万5千円のコシャ張りだったからこそ。
これが4万円も5万円も張り付けていたら、豚を殺す騒ぎになっていたはずだ。
 
「今日は『菊花賞』ですね。狙いは?」
「テレビや新聞でも大混戦と騒いでる通り難しい。確固たる軸馬がいねんだから俺向きのレースじゃねえのは確かだ。ならば有利とされている内枠をチョイスするのも手かと。ここ一番なら力を発揮する謙一のブラストワンピースと、意外性の男、裕信のジェネラーレウーノが同居した2枠から流そう。大本線はデムーロのエタリオウ5枠で5万。ゾロ目の2ー2を1万。2ー3を元返しで1万と5千。同じく元返しでマジックマンの7枠に5千。予算が8万と5千だから、余った5千は遊びでゾロ目のまっちゃん5ー5に張り付ける」と結論付けた。
 
観客数に拘った沢田研二、枠に拘った馬券で何とか絵にしようと、ない頭を絞ったマスターだが…さて( ̄(工) ̄)