漢!山根会長のおかげ横丁で脚光を浴びているボクシング。
プロの世界ではウルトラ級のスターがいた。
その中でも関西の人間にとって別格だったのが、『浪速のジョー』こと辰吉丈一郎。
入場曲はブルース・リー『死亡遊戯』のメインテーマである。
アチョー!アチョ!アチョ!
そんな辰吉丈一郎のベストバウンドは、WBC世界バンタム級王者薬師寺保栄との統一戦。
『歴史の男』山根会長なんて足元にも及ばない死闘を繰り広げ、ボクシングの歴史にその名を刻んだ。
1ラウンド序盤に放った左ストレートが薬師寺の頭部付近に当たった際、骨折。
以降なかなか左が出なくなり、セコンドから左を出すように言われると、「骨折れて出んのじゃボケ!」顔も悪いがガラも悪かったのである。
出身の倉敷では、小学生から中学生時代までの喧嘩では負け知らず。
不良少年としての”武勇伝”は今でも伝説になっているという。
「この『関屋記念』は『朱鷺ステークス』のリプレイを見てるようなレースになんじゃねえの。メジロカンムリは強ぇ。ヘボのカッチーとも何故か相性がいいしョ。2着だった地方からの転厩キタサンテイオーも、芝での適正がある事が判った。屋根がやんわり乗る英二から、無茶追いのエビショウに変わったのが、チイとばかし厄だが恰好はつけるばずだ。後はエアリアルぐれえか。もっとも馬優先主義の岡部から、町田への乗り替わりはマイナスだろう。紛れがあるとすりゃ〜英二が、キタサンテイオーと天秤に掛けて選んだシスティーナまで。枠の5ー8が大本線、5ー7を押さえりゃ〜お帳面のレースさ〜ね」と、聞かれてもいないのに長講釈はマスターの昔からの悪い癖である。
「4コーナーから直線!ペガサス粘る!粘る!メジロカンムリも先団グループの中で虎視眈眈の5番手!各馬が一斉に広がった!どの馬が来てもおかしくない!内でマイスーパーマン!その外馬体を併せてシスティーナ!システィーナ!マイスーパーマンとシスティーナが内外並んでゴールイン!」
1着 マイスーパーマン 9歳 大塚栄三郎 13番人気
2着 システィーナ 牝6歳 中舘英二 4番人気
3着 ペルシャルマンテ 牝5歳 木幡初広 7番人気
単勝9260円、馬連41630円の大万馬券となった。
「なんだ!なんだ!なんだ!マイスーパーマン?そんな馬出てたのかョ〜。しかも屋根がどっこい大塚栄三郎なんて冗談じゃねぞ。去年、京都に遠征して来た時、酒をかくらって調整ルーム入りに遅刻。しかも連絡の一本も寄こさなかったと、中央競馬のお偉いさんの逆鱗に触れて騎乗停止になった不良中年だろ。騎手になる前は板前だったって話もある。そんな野郎がもう終わってるはずの9歳馬で勝つなんて信じられねえョ」とボヤく事半端ないが、あ!っと云ったが鉄火の手離れで、時既に遅しだったのである。
ボクシング界を代表する不良、辰吉丈一郎が死闘を繰り広げ、競馬界を代表する不良、大塚栄三郎が大仕事をやってのけた。
1994年の事である。
もう〜随分昔の話しだな〜。