「押すなよ!押すなよ!絶対に押すなよ!」
「訴えてやる!」
「俺は絶対やらないぞ!お前やらないの?じゃあ俺がやるよ!いやここは俺がやるよ! •••••••じゃあ俺がやるよ。どうぞどうぞ!」
「ムッシュムラムラ」
「みんな仲良く脇(和気)・アイ!アイ!」
ブレイクしては消えるお笑い芸人、年収ウン千万があっと云う間に100万にも満たない金額に落ちる。
その後出る番組と云えば、「あの人は今」的な企画しかないのが常だが、長きに渡って不動の人気を誇るのが『ダチョウ倶楽部』だ。
肥後克広、寺門ジモン、上島竜兵の計算されたコンビネーションで見せるコントは、ウケる・ウケないではなく、もはや日本の伝統芸の領域まで達している。
聞き飽きたギャグが何故笑えるのかは不思議でも、「そろそろ出るぞ!」と思って見ていると、案の定「みんな仲良く脇(和気)・アイ!アイ!」
「ガハハハ、馬鹿だね〜」
水戸黄門の印籠並みの威力である。
そんなこんなで、今では不動の地位を築いた『ダチョウ倶楽部』だが、彼らを一気にスターダムに押し上げたギャグがご存じ 「聞いてないよォ」
あのくだらなさで一世風靡セピアした、『お笑いウルトラクイズ』で生まれたギャグだ。
最初は本当にこれから行われる企画をまったく聞いておらず、その企画で受けたあまりに過酷な仕打ちから、寺門が「聞いてないよォ」とポロリと言ったことから生まれた。
番組がオンエアされるたびに『ダチョウ倶楽部』に課せられる、良い子は絶対真似しないでくださいの企画。
どこまでエスカレートするのか興味津々で、テレビの画面を食い入るように見ていた記憶が鮮やかに蘇る。
その「聞いてないよォ」はニャンと!1993年流行語大賞大衆部門・銀賞を受賞したのである。
「小倉で開催される『トヨタ賞中京記念』て云うのも変な感じだが、JRAからのサインがバチコン!と出てる。チョイばかし年季の入ってるファンなら直ぐにピン!と来るはずだ。そこのお父さん煙草なんか偉そうにふかしてる場合じゃねえよ。小倉と云ったら何ない?え、小倉太鼓?競馬だョ、競馬。どうしようもねえな〜、小倉と云や〜土肥の幸広だろうが。中央場所じゃあ借りて来た猫みてえな野郎だが、一旦関門海峡を渡ると大威張り。よくとんでもねえ馬を持って来て『ありゃ〜馬が走ってんじゃねえ、幸広が走ってんだ』と馬券愛好家の度肝を抜く事も万度ョ。それが勝ち負けのアラシに乗っての勝負掛り。これを買わずして真の馬券師とは云えま〜が。お父さん聞いてんのか?」
「……………」
「このアラシって馬が不憫な馬でョ〜。気性が荒いからと、デビュー前から去勢されて男稼業を引退させられてんだ。能力はグンバツでまともに走りゃ〜むちゃんこ強ぇが、気が向かないとてんでお話しにならねえ癖馬。メンコの嵐の縫取りがトレードマークだからお父さんも知ってるだろ?今回の『トヨタ賞中京記念』はとにかく相手が軽い。1番人気勝一のロングタイトル、2番人気豊から晃一へ乗り替わりメイショウレグナムなんて全然怖くねえョ。敢えて挙げるなら苦労人大崎の昭ちゃんメイキングテシオじゃねえかな。結論!アラシの単勝に1万、複勝に4万。小倉の鬼幸広が稀代の癖馬を駆って漢になる」
聞かれてもいないのに長講釈はマスターの昔からの悪い癖だ。
「第4コーナーから直線!ナリタハヤブサ内で先頭!内外大きく広がった!外からアラシ!外からアラシ!ナリタも来る!メイショウレグナムも突っ込んで来た!先頭はアラシ!アラシだ!アラシだ!アラシ先頭でゴールイン」
単勝が610円、複勝が220円も付いた。
「お父さん!俺ぁとんでもねえ根性ナシよ。JRAから儲けてくださいのサインが出てるのに、複勝なんて弱気の虫に取り憑かれちまって。度胸一番単勝にドカンと張り込んでりゃ〜30人の諭吉ドンがオイチニオイチニと行進をしたのによ〜。あ〜だめだ、だめだ」
嘆いてるフリをしながら、4番人気のアラシと土肥Jにめっこを入れた自画自賛を撒き散らしているのだから、程度の低さは半端ない。
『ダチョウ倶楽部』のように、去勢される時アラシが「聞いてないよォ」と云ったかどうかは知る由もないが…….いい馬だったな〜。
1993年、もう随分と昔の話しである。