「イブちゃんの遺骸からは覚醒剤は検出されなかった」との報道が流れた。
ワイドショーはこの話題が独占だ。
ポリスや一般民のオツムの中で組み立てられていたストーリーからは、何が何でも覚醒剤が検出されるべきだったのだが……。
『金が仇の世の中で』は、丁髷を結って、褌一丁で走り回っていた時代から使い古された言葉。
今回の事件も、紀州のドンファンこと幸助君が、年金暮らしのおたっしゃ倶楽部なら発生のしようがない。
なまじ金満家で稀代の女性好きだったが故である。
日々、報道される事件の原因は大半はお金と女性。
人間の欲と業、それが事件を引き起こす。
そんなこの世の中で1番大切かも知れないお金だが、少しくたびれたお父さん達が、「あ〜、あった、あった」と頷くのが、『二千円札』である。
沖縄サミットと西暦2000年をきっかけとして、1999年に当時の小渕恵三内閣総理大臣が「オラも総理大臣になったからには何か目立ちたい」の号令一下。
バット！好事魔多しの急死で、2000年に歴代総理大臣の中でもダメダメ度では頭一つ抜けている、森内閣の元で発行。
表面は『守礼門』で、裏面は『源氏物語』
なんとも趣きある図柄と物珍しさで、我も我もとコレクションする人間が巷に溢れた。
しかし、使い勝手が良くないのか、数年も経つと厄介者で、「え！二千円札かいな。迷惑やな〜」
この世の中の根本をなすお金。
しかも5千円札よりは少し下だが、千円札よりはウンと偉い二千円札。
それがいつの間にか、迷惑がられた上に忘れ去られているのだから、かなり切ない事態である。
その二千円札が発行された2000年、忘れるどころか、今でも鮮やかに蘇るレースがあるそうな。
不世出の名馬テイエムオペラオーの『宝塚記念』だ。
「今年の上半期の総決算『宝塚記念』。不動の軸は竜二のテイエムオペラオーなのは、そこいらを歩いている鼻垂れ小僧でも知ってる。マニーがありゃ〜100でも、200でも張り付けられるが、手元不如意で10枚の万札が根っきり葉っきりだ。オマケに可愛いワンちゃんや綺麗どころの芸能人につい誘われて、詰めなきゃならねえ負債がモリモリ森昌子。俺がまともな人間なら竜二の単勝オッズ2倍！喜んで〜の頑固炉端だが……..。かと云って偶然期待で穴馬に突っ込んでオケラ虫になりゃ、別嬪さんがレオタードで踊りまくる店まで脚を運ばなきゃならねェ。おい！どこに行くんだお父さん？人の話しは最後まで聞かなきゃ」
「……………….」
「そこでだ！竜二の単勝5万で元返し。残りの5万を、竜二と6番人気ながら一発ありそうな、河内のオッさんメイショウドドウで組み合わせる。『メトロポリタンS』も強かったが、雨の『金鯱賞』をぶっこ抜いた脚は本物ョ。しかも屋根が酔っ払いのヤスヤスから、いぶし銀の洋に変わるなら全てが更に好転する。怖ぇのはグラスワンダーだが、的場からエビショウへの乗り替わりは大マイナス。もう一頭はもちろん豊のラスカルスズカで、こいつは無視できねえ。よってテイエムオペラオーとメイショウドトウのワイドに5万。400円は最低でも付くって算段だ。まあ、俺は苦しいから捻るが、お父さんは真似すんなよ。ワンちゃんのオツムを撫ぜ撫ぜする羽目になっからョ」
気の弱そうな馬券愛好家をつかまえては、聞かれてもいない長講釈は、マスターの悪い癖。
「4コーナーを回って直線！内を突いてラスカルスズカ先頭！外からテイエムオペラオー！ジョービックバンも連れて上がって来る！グラスワンダーは伸びない！」
「よっしゃ！エビショウは売り切れだ！洋！叩きまくれ！」とマスター大絶叫。
「テイエムオペラオーがラスカルスズカを捉えた！テイエムオペラオ先頭！2番手内からメイショウドトウ！ステイゴールドも突っ込んで来る！ジョービックバン粘って2着争い！テイエムオペラオー先頭でゴールイン、2着メイショウドトウ！3着ジョービックバンか」
「サンキューベラマッョ！競馬の神様感謝！感激！雨霰。へへ豊とエビショウがぶっ飛んで、このワイドは付くぜ。まあこんな事でもなきゃ〜競馬なんて馬鹿馬鹿しくてやってられねえョ！」と右手を大きく突き上げたマスター。
テイエムオペラオーの単勝は2百円を僅かに切る190円だったが、メイショウドトウとのワイドが、ニャンと！570円も付いたんだからたまらない。
「無くならねえ内にワンちゃんのところに返済しとっか」と独り言。
二千円札は忘れ去られたが、『宝塚記念』テイエムオペラオーとメイショウドトウの走りは忘れられないんだとか。
ミレニアム2000年の出来事である。
今年は荒れます。
穴馬でも探すとしましょうか(๑˃̵ᴗ˂̵)
