北新地競馬交友録

高倉健さんと函館競馬場

我がJAPAN永遠の大スターと云えば故高倉健さん。
演技はお世辞にも上手だとは云えなかったが、立っているだけで様になる俳優さんであった。
少しばかり年季の入った競馬ファンならば、随分と昔に流れたJRAのテレビCFを覚えおられる方も少なくないと思う。
役者人生で何本のシネマに出演されたかは存じ上げないが、唯一JRAの競馬と高倉健さんが絡んだシネマが『居酒屋兆治』。

高校野球のエースとして青春を駆け抜けた高倉健さん扮する藤野英治。
社会人となり、造船所の中間管理職であったが、折からの不況でリストラ係の辞令を受ける。
やがて、仲間の首を切ると云う役目に耐えきれず退社。
紆余曲折がありながら、『兆治』と云う居酒屋を営む事となる。
その『兆治』がある函館を舞台に繰り広げられる人間模様を丁寧に描いたのが『居酒屋兆治』である。

学校の恩師である故大滝秀治さんとの会話が面白い。
「ヒンドスタンやパーソロンまでは分かるんですが、最近のテスコボーイは分かりませんよ」と高倉健さん。
「この開催は1-6の目が出ていないので、ずっと買い続けている。いつか出るでしょう。わっはっは」と大滝秀治さん。
あの高倉健さんが血統派と云うのが受けるし、会話がまるで成立していない。
出目の話しに微妙な表情の高倉健さんに、「同じ競馬場で違う競馬やっているみたいだな。わっはっは!」と大滝秀治さん。
競馬ファンなら思わずニヤリとさせられるシーン。

函館競馬場のシーンでは、馬券を当てたらしい高倉健さん。
周りの競馬ファンは大騒ぎしているが、口を一文字に結んで「よし!」と心の中で頷いているように見える。
馬券が少々当たったからって、見っともない真似は出来ないと云ったとこであろう。
改装されてキレイになる前の函館競馬場の風情も、なんともノスタルジーを掻き立てる。
そして競馬場に行く高倉健さんのファッションがまたいい。
黒のポロシャツ、片手にジャンパー。
そうブルゾンではなくまさしくジャンパーなのである。

原作は全国の地方競馬場を踏破した『草競馬流浪記』でお馴染み故山口瞳さん。
道理で競馬ファンが思わず頷くシーンがある訳だ。
余談だが、相手役の故大原麗子さんの美しさは半端ない。
昨今の整形美人とは、天と地、メダカとクジラ、提灯と釣鐘ぐらいの開きがある。
脇を固める、加藤登紀子さん、田中邦衛さん、故伊丹十三さん、小松政夫さん、左とん平さん、ちあきなおみさん、そしてスペシャルサンクス細野晴臣さん、皆さんの個性がキラキラと輝いた素晴らしいシネマであった。

今週から函館競馬開催。
高倉健さんみたいに、喜びを静かにぐっと噛みしめるような馬券を取りたいものである。