北新地競馬交友録

あり得ないのだが……

「みんな私らが悪いんであって、社員は悪くありませんから! どうか社員に応援をしてやってください。優秀な社員がたくさんいます、よろしくお願い申し上げます、私達が悪いんです。社員は悪くございません」と『山一証券』の社長が号泣しながら頭を下げる映像が流れた。

日産生命保険に大蔵省が業務停止命令。
山一証券系列『小川証券』の自主廃業を、大蔵省が認可。
三洋証券が事実上の倒産、負債総額は3700億円超え。
北海道拓殖銀行が巨額の不良債権を抱えて経営破綻。
徳陽シティー銀行が不良債権を抱えて経営破綻。
丸荘証券が自己破産申請。
そして真打ち『山一証券』が自主廃業。

この年はその他にも『ヤオハン』や『京樽』等々が潰れたが、一般の物を売るような企業と、証券、銀行、保険では、インパクトがまるで違う。
それまでの、護送船団方式が立ち行かなくなった末の破綻が続出し、まっ事持って驚愕の事態が多発。
消費税アップと相まって、この年は日本全体が厄に覆い尽くされた。

「こったら簡単なレースはまずねえんじゃねえの?クマちゃんのヤマニンパラダイス、成貴のフラワーパーク、正義のシンコウキングの3頭立てだろう。枠の7ー8が大本線。7ー7のゾロ目を押さえりゃお帳さ〜ね。紛れがあるとすりゃ〜克己ロイヤルスズカの激走だが、なんせちんマイ馬だから、2、3回ぶつけられたら『失礼しました』で終いだろう。どれが勝つかじゃなくて、7ー8に幾ら張れるか、度胸1番!おとっさんも勝負師の端くれなら突っ込んでみない」
聞かれても居ないのに長講釈は、マスターの昔からの悪い癖である。

「第4コーナーから直線!ドウジマムテキ先頭!フラワーパーク!シンコウキング!オレンジの帽子が突っ込んで来る!」
ドウジマムテキの大逃げに7枠の2頭が迫る展開、「クマ!クマ!クマ!ヤマニン来んかい!」とマスター絶叫。
「ドウジマ粘る!シンコウキング!フラワーパーク!お〜外からヤマニンパラダイス!間からオースミタイクーン武幸四郎!外!外!ロイヤルスズカ!先頭はオースミタイクーン!金星ゲットなるか!ヤマニンパラダイス!ロイヤルスズカも突っ込んで来くるが!オースミタイクーン!幸四郎だ!大金星だ!」

『第28回 読売マイラーズカップ』
1着 オースミタイクーン 武幸四郎J
2着 ロイヤルスズカ 南井克己J
3着 ヤマニンパラダイス 熊沢重文J
単勝5520円(11番人気)馬連45640円(54番人気)
デビューしたてのアンちゃん、武幸四郎の大仕事にシンとして声もない梅田場外午後4時前。
ひと呼吸置いて、「買えるか!」「オースミ?こんな馬出とったんかい!」馬券愛好家達の怨嗟の声が虚しく響く。

「中央競馬会も何をするんなら?いくら武邦に世話になったからって、ボンクラ息子に花持たす事ぁ〜ねえんだ。へっぴり腰で全然追えてねえのに勝つたぁ〜どう云う事ない」とマスターがボヤいても時すでに遅し。
競馬の鉄板は豆腐並みに脆いのは判っていたはずだが………。
世間では潰れるはずがない金融機関がお釈迦に、そして競馬では来るはずかないオースミタイクーンが激走。
マジカル、あり得ない事が起こった1997年。
遠い昔の事である。