北新地競馬交友録

地味だけど

「新しい元号は『平成』であります」
これでピン!と来る人は少なくないと思うが、この方が病に倒れるまで、総理大臣を2年近く務めた事を覚えている方はどれぐらいいるのであろうか。
「ビルの谷間のラーメン屋」と自嘲しながらも、気配りの総理大臣として地道な政権運営に努めた方である。
就任当初はまるで人気がなく、どうなる事かと思われたが、これがどうしてなかなかキチンと仕事をしていた。
思い切った財政出動で景気の立て直しを図る一方、周辺事態法や国旗国歌法を成立させ、現在に至る公明党との連立政権の礎を築いたのである。

学生時代は、東京外国語大学外国語学部モンゴル語学科を受験するも不合格。
二浪後、早稲田大学第一文学部英文学科に進学すると云う、およそエリートとはかけ離れた経歴。
しかし、凡庸な人間かと云うとそうではない。
選挙区である群馬県では、中曽根康弘、福田康夫らと激しいバトルを繰り広げ、一歩も引かなかったのだから大したものである。
その「ビルの谷間のラーメン屋」事、小渕恵三が総理大臣にまで上り詰める事となる。

「『阪急杯』は天気さえ良けりゃ〜マサラッキで何にもねえだろ。熊公のジェットアランド、豊のレイシアトルとは力が違う。一頭怖いのはマサルのテンザンストームだが、なんせ抑えが効かなくて、溜めて逃げるなんて小器用マネは無理。行くだけ行って『さ〜どうにでもしてくれ!』じゃ分が悪ぃ。マサラッキの単勝は2.6倍ってか?あたし前よ!勝つんだから上等だろう。屋根が河内洋と云うのもいい。馬も地味なら屋根も地味。ここは『高松宮記念』への足慣らしさぁ〜ね」
誰も聞いてもいないのに、長講釈をべしゃるのはマスターの昔からの悪い癖である(≧∀≦)

「第4コーナー!早くもマサラッキが前に取り付く!テンザンストーム内で粘る!マサラッキがその外から被せて先頭か!後ろからはジェットアラウンド!大外からセンタームービング!しかしマサラッキ!マサラッキが一気に突き放した!2番手はセンタームービング!レイシアトルは3番手まで!マサラッキ圧勝」
河内洋が、ほとんど持ったままの勝利なのだから、2線級が相手とは云えマサラッキは強かった。

「こったらレース、落ちているマニーを熊手でかき集めるようなもんだろ!な!おっさん」見ず知らずの馬券愛好家の肩をバンバン叩くマスター。
ちいとばかし怖い人なら「気軽に触るな!」だろうが、そんな事は気にもしてないんだから、全く持って迷惑な人間であった。
地味な小渕恵三が総理大臣に上り詰め、これまた地味なマサラッキが『阪急杯』で圧勝し、『高松宮記念』でダークホースとして一躍脚光を浴びる事となる1998年。
もう20年も前の話しである。