北新地競馬交友録

長浜調教師と河内洋

『最高で金 最低でも金』

無敵と云われたYAWARAちゃん事、田村亮子ちゃん。
世界柔道選手権、福岡国際女子柔道などで連覇を重ねるも、92年のバルセロナ、96年のアトランタと過去2回のオリンピックでは銀メダル。
シドニー五輪をまえに、YAWARAちゃんは目標を「最高で金 最低でも金」とインタビューに答えた。
そして『期待されつづけた十年』というプレッシャーを自らの実力で解き放ち、ついに宿願の金メダルを獲得したのは2000年の事である。
その2000年に悲願の『日本ダービー』を制したジョッキーがいた。
オールドファンにはお馴染み河内洋である。

「さ〜!500メートルの直線!生涯一度の夢舞台!ジョウテンブレイブ先頭!外から懸命にアトラクシア!エアシャカール!エアシャカール!大外からアグネス!アグネスフライト来た!しかし!エアシャカール!エアシャカール!豊だ!豊!河内の夢も差を詰める!エアシャカール!アグネスフライト!河内の夢か!豊の意地か!どっちだ〜」
実況をしている三宅アナも大興奮だったが、それ以上に日本全国のオヤジ競馬ファンは燃えた。
職人河内洋が届きそうで、届かなかったダービーJになったのである。
最後の100m、河内洋は鬼になった。
遡る事7年前の柴田政人ウイニングチケットのように。

『神戸新聞杯』『京都記念』共に2着。
『日本ダービー』以降の9戦で勝利なし。
「アグネスフライトは、洋にダービーを取らす為にだけ産まれて来たような馬よ。あれで燃え尽きちまったんだ」
アグネスフライトの馬券を握りしめて、諦観とも云える言葉を何度呟いた事か。
そのアグネスフライトを管理していた、長浜調教師が今週で勇退する事になる。
「競馬はロマンだ」負け組の馬券愛好家は云う、ロマンを追っかけてると退場する羽目になるのは承知の助でも……。
長浜調教師、あなたはロマンの塊でした。

『最低でも金 最高でも金』YAWARAちゃん程の心境だったかは、本人達しか判らないが、河内洋と長浜調教師の脳裏には金しかなかったのは想像に難くない。
『花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ』は故井伏鱒二の文章をもじった故寺山修司の言葉であるが、河内洋とアグネスフライトにかけた長浜調教師。
競馬界の一線からは引かれても忘れる事のない、まごうかたなきホースメンだったと思います。

お疲れ様でした!