北新地競馬交友録

ルーキー

スーツと云うのは不思議な事に、着慣れていないと、かっこ良く着こなす事が出来ない。
道を歩いている、この4月から新社会人になったルーキー達は大概一発で判る。
ハードが低くなった北新地でもたまに見かけるのだが、スーツを着ていると云うより、スーツに着られているそんな風情なのである。
大昔、マスターにもそんな時代があった。
内定を貰った会社が、いまでこそテレビでCFを見ない日はないメジャーな企業になったが、当時、世間的には学生サークルの延長ぐらいの認知で、いわゆる大企業と云われる会社からしたら、海の物とも山の物とも判らない存在。
バット!北新地ではメキメキと頭角を表していたのだから順序は逆である。

内定者の顔合わせと称して、駅前第2ビルの横、丸ビル第一ホテルのロービーに集合させられ、やたら高そうな焼肉屋からの二軒目が、泣く子も黙る『クラブ山○』Σ(゚д゚lll)
当時はまだビルが建つ前で、中二階と半地下の造りであった。
中二階の方は鉄道会社近○の会長だとか、関西電○の社長だとか、とにかく知らない人はいない有名企業のトップクラス。
半地下の方はマスターが内定を貰ったような新興企業や自営業の面々と、あからさまにクラス分けがされていた。
「この店幾らか知ってるか?」
「いえ(´・Д・)」」
「座っただけで5万だよ」
「冗談でしょ〜」
総務の担当者から聞かされてびっくりぽん!

きれいだがおばさんみたいな女の人が横に付いて、つまらなそうにされて5万円。
マスター、この店はいつか詐欺で訴えられるに違いないと思ったんだとか(笑)
それが人間と云うのは不思議なもので、同じ飲みに行くなら、『クラブ山○』は無理でも、北新地のラウンジやスナック。
東通りと聞いただけで「やめときますわ」になるのだから……….接待、自前を併せて使ったお金は天文学的金額になるそうな。
マスター、挙句の果てはカウンターの中で、似合いもしないお愛想笑いをしてるんだから、まさかお釈迦様でも弁天様でも思うまいである。
良しに付け、悪しきに付け、何事も最初が肝心と云う見本みたいなお話しなのだ。

「マスターさん!土曜日の狙い馬は?」熊本天草出身○原さん。
「うむ!阪神1R豊大明神のチカリータちゃんを買おうと思ったんだが、他の馬と差があり過ぎて単勝2倍を切るどころか1.5倍ぐれえになるんじゃねえかな〜。競馬に絶対はねえのによ〜ハイリスク!ウルトラローリターンだ。一層土曜日から始まるメイクデビューでも買ってやろうかと…….」
「そう云えばメイクデビュー土曜日からですね?いいお馬さんいてますか?」競馬友達K君。
「それが阪神はどんぐりの背比べでよ〜。応援したいのはつい先日、京都馬主協会会員M宅先生がお連れくださった調教師さんの管理馬アルマシャールだが………..」と悩むマスター。

珍しく東京のメイクデビューの馬柱を穴の空くほどガン見して出した結論が、「ルメールのメイトサンて、栗東、安田隆行厩舎の馬だろ。はは〜ん阪神の1600は長いと見ていきなり1400の東京に遠征掛けてんだな。こりゃ勝負掛かりに違いねえ。この馬だ!この馬!馬主が?Jウイルソン?なんだ〜?このフォーリナーは?京都馬主協会会員タバート君ならよく知ってるが、聞いた事ねえよ。まあ堅実なダイワメジャー産駒だからカッコは付けるだろう」
そんなこんなで、単勝1万、複勝2万でご機嫌を伺うんだとか。

人間のルーキーじゃないが、馬も最初が肝心。
どっかの飲み屋のオヤジみたいに、悪い癖が付かないように、ルメールJエスコート宜しくお願い致しまス!