北新地競馬交友録

猿の手

『猿の手』と云う短編小説をご存知だろうか?
イギリスの小説家W・W・ジェイコブズの作品なのだが、これがどうしてなかなか怖い。

老いたホワイト夫妻とその息子ハーバートは、インドの行者が作った猿の手のミイラを、知り合いからもらい受けた。
その猿の手には魔力が宿っていて、持ち主の望みを3つだけ叶える力があると云うのだ。
そして、ホワイト夫婦は、猿の手に家のローンの残りを払う200ポンドが欲しいと願うのだが……..。
その翌日、一人息子のハーバートが勤務先の工場で機械に挟まれて死んだと知らせが届き、会社から200ポンドの弔問金が支払われた∑(゚Д゚)

息子の死を心底嘆き悲しむホワイト夫妻。
ある夜、どうしても諦めきれない妻が夫に、猿の手で死んだ息子を生き返らせてくれるようにと懇願するのだ。
夫は断り切れず、二つ目の願いをかける。
しばしの後、ホワイト夫妻は家のドアを何者かがノックする音に気付き、夫人は息子が帰ってきたのだと狂喜して迎え入れようとしたが、その結果を想像して恐怖した夫は猿の手に最後の願いをかける。
「息子を墓に戻せ」
激しいノックの音は突然途絶えたのである~_~;

世間様が寝静まった深夜、一人でこの短編小説を読んでいると、その光景が頭の中を過ぎりチキン肌に。
(キャー!怖い)
無理な願いや、大それた願いは、思いがけない厄災を持たらすと云う事なのかも知れない。

「菜七子ちゃんフィーバーが凄いが、競馬界の元祖アイドルは豊大明神よ!中京土曜日で馬券になる馬が6頭はいる。儲け倒したらんかい!」
と気合い充分のマスター。
「マスターさん!おはようございます。◯原で〜す」
「◯原で〜すじゃねえよ。こちとら昨日の夜は高級ワインやら、おシャンパンをドリンキングさせて貰ってフラフラだ。で、何の用ない?」
「何の用って(`_´)ゞマスターさんが、土曜日は1Rから武Jで儲けるから絶対起こせ。もし起こさなかったらケジメ取ると脅されたから電話したんですよ。切りましょか?」
「あ〜そうだったな。ワリイ、ワリイ。え〜と予習はバッチリしてますよ〜だ。1Rはサウンドダンサーが強い!タイセイラナキラとの一騎打ちよ。ワイドでナンボ付く?」
「1.2ー1.3です」
「なんじゃ!そりゃ。また120円かよ。俺はつくづく120円に縁があんな。まあド鉄板だしいいだろ2万張っつけてくれ!」

「Kです。マスターおはようございます。5ヶ月ぶりのサウンドダンサー、馬体重がプラス20Kgなんですが、馬券買っていいんですね?」
「ば!馬鹿野郎!それを早く云えってんだ。パドックはどうない?腹は揺れてたか?」
「北海道でしか走ってなくて、一回も見た事のない馬ですから、どうにも判断のしようがありませんよ」
「う〜ん」と唸った切り黙り込んだマスター。
寝ぼけ頭を無理やり叩き起こして考え込んで出した結論が。
「人間も馬も太めはよくねえ。動きが鈍くなるしな。それによ〜おデブが裸で取っ組み合いする『大相撲大阪場所』は明日の日曜日からだろ。1日早えよ。見送ろう!この後、馬はナンボでも控えてんだ」
(なんて馬鹿な理由だ〜、呆れるよな〜実際)

「4コーナを回って直線!先頭は逃げるスピードムテキ、2番手サウンドダンサー!そして外からタイセイラナキラ!内を突いてオルノスが3番手!200mを通過しました!追い込んでくるエメラルドクィーンですが、完全に抜けたタイセイラナキラ!ゴール」
サウンドダンサー、プラス20が堪えたか直線失速で6着。
「危ねえ!危ねえ!K君が教えてくれなかったら、いきなり飛び込んでケッチん喰わされるとこだったぜ。ヨッシャ!今日はツイてるね〜!ノッテるね〜の小泉今日子だ。次は3Rのアリッサムだな。それまでにシャワー浴びてスッキリスさんだ!」
2万円助かりでテンションがいきなりあがってる。

「中京はご当地馬主が、何故か大活躍しますよ。アリッサムの馬主さんは中京馬主会で知らなきゃモグリと云われるぐらいの方ですから、買う価値大有りです」
日頃から人方ならぬお世話になっている、法曹関係と競馬の仕事で二足の草鞋を履いているTさんから前日にレクチャーを受けていたマスター。
「アリッサム人気がねえな〜6番人気とはよ〜。スンナリと前行きゃ3着には残るだろ。相手はテンデ見当もつかねえから複勝だ。2万ばかしご機嫌伺いと行くか」これが嵌った!
「第4コーナを回って先頭はアリッサム!そしてカレンコマンドール!この間を突くか2枠の2頭!タイセイブロッサム!サトノカガヤキ!」
「豊!豊!頑張れ豊!ヨッシャ!デケタ!サンキューベラマッチョ!」
マスター、グリーンチャンネルに向かって絶叫だ。
「外から追い込んで来たのは一気にヤギリジャスパー!残り200!ヤギリジャスパーがアリッサムを交わした!先頭でゴールイン」

「マスターさん!おめでとうございます。複勝300円も付きましたよ」
「何がめでてえんだ?2万が6万になっただけだろ。こったらもんで満足してれっか!まだまだこれからよ!豊大明神にゃ〜後4頭控えてんだ。今日は最低50万はいわしちゃる」
勝てば官軍とはよく云ったもんで、本当は激しく嬉しいのに、吐き捨てるような口調でまくし立てたマスター。

『猿の手』はたった3つのお願いで恐ろしい事が起こったのに……..武Jに5つもお願いしようなんて……..。
お話しの続きは明日です。
皆様、お目汚しのお付き合い、宜しくお願い申し上げます。