北新地競馬交友録

コホーネス

『パパ・ヘミングウエイ』『ラストアメリカンヒーロー』の愛称で、USAの国民に最も愛された作家アーネスト・フェミングウエイ。
釣りや狩り、ボクシングや闘牛を楽しむアメリカ的でマッチョなライフ・スタイル。
海外の戦場にも取材に出かけてゆくお節介なまでのヒロイズム。
飽く事もなく繰り返される女性との恋愛。
その豊富な実体験に裏打ちされた彼の作品に魅了されると、これはもうやめられない!止まらない!カッパエビセンなのである。

そんなヘミングウエイの作品の中でもお気に入りの一つに『午後の死』がある。
スペインの国民的娯楽である闘牛を題材にした小説。
この小説の中で繰り返えし使われるコホーネスと云う言葉があるが、そのまま日本語に置き換えると、『◯丸』と云う意味。
お上品な言葉ではないが、小説の中でヘミングウエイは、転じて『肝っ玉』と云う意味で多用している。
常に危険と隣り合わせの闘牛。
どこまでギリギリガールのところで、牛の突進を交わす事が出来るか、それがコホーネス。
コホーネスを持っている闘牛士は、ヤンヤヤンヤの喝采を浴び、コホーネスを持ち合わせていない闘牛士は観客から見放される。
競馬にもコホーネスはある。

「おっしゃ!岩田!突け!インや!イン」
神戸元町ウインズで、マスターと愉快な仲間達はそれなりの有名人であるが、もう一組の有名人達がいる。
それが岩田J応援団。
人気があろうが、なかろうが、勝ち負けになろうが、成るまいが、常に岩田Jの馬券を買っている。
神戸は、元々出身の園田競馬の地元と云う事もあるだろうが、彼らが応援するのは、岩田Jの勇気が故である。
勝利への執念が最短距離のインを突かせる。
当然、リスクを伴うがそれをものともしない騎乗が、応援団の心を熱くさせるのだ。
ヘミングウエイ風に云うならば、岩田Jにはコホーネスがある。

「◯◯なめとんか!なんじゃ!あんな外回して届くか!……..◯◯返せ!」
これ以上は書くのをためらわれるので控えるが、たまに強烈な怒声が飛ぶ事がある。
お上品な馬主席ではない、神戸元町ウインズである。
騎手も命掛けなら、ファンも命より大切かも知れないお金を賭けている。
もちろん一生懸命乗っているのであろうが、弱気な騎乗や、真剣味に欠けるように見える騎乗には手厳しい。
「◯◯だけは一生買わん!」
コホーネスがないと思われているのである。

16年ぶりにJRAで女性騎手が誕生する。
藤田菜七子ちゃんである。
まあ〜なんて!めんこい(⌒▽⌒)
競馬学校で、男子に負けるかと、一生懸命頑張る姿には胸を打たれたし、是非とも応援しなければいけないと、全ての競馬ファンが思っているのではないだろうか。
デビューには、NHKを初め各マスコミが大勢駆けつけるであろうが、出来れば、あまり大騒ぎして欲しくないと思う。
ゲートが開けば、新人も性別も関係がない、百戦錬磨のベテラン達と同じ土俵で勝負をするしかないのだから。

まずはレースに慣れる事が一番。
周りが騒ぎ過ぎると、その重圧で技術の裏付けがないのに、蛮勇を奮う事にならないかが心配である。
「女性には本来の意味でのコホーネスはない」なんて茶化す気はサラサラない。
無茶したらダチカンゾ!
菜七子ちゃん!頑張れ!