今年も、世相をユーモアや、切ない想いで表現する、「第一生命のサラリーマン川柳」で、約4万句の中から優秀100作品が選ばれた。
過去にも秀逸な川柳が山盛りモリモリである。
「『辞めてやる!』 会社にいいね!と 返される」
「宝くじ 当たれば辞める」が 合言葉
やられたら やり返せるのは ドラマだけ
「先を読め!」 言った先輩 リストラに
クレームも 社員じゃわからん パート出せ
マスターも45歳までは、広告関連弱小会社のサラリーマン。
会社はミニモニだったが、クライアントの筋は良質。
中でも日本どころか、世界に冠たる某メーカーを15年以上担当していた。
得意技は出来る人間にへばりつく事で、強固な人間関係を築いて、楽勝で仕事をこなしていた。
そこまではいいのだが、その担当が出世してしまうと、後任は若手のお出ましとなる。
前任者の色が付いている上に、年上だと煙たがられるのは必然だ。
相手はオツムのいい学校を出て、ウルトラメジャーな会社の広報宣伝。
挫折知らずでプライドの塊なんだからこれはやりにくい。
まるで「お宅ところみたいな吹けば飛ぶような会社と付き合いたくないんですよ。格が違うんですから」と顔に書いてある。
それでも身過ぎ世過ぎで頭を下げるしかない我が身を呪い、頭の先からつま先までコンプレックス&ストレスにどっぷり浸かっていた。
2002年の『フェブラリーS』は豪華なメンバーが勢ぞろい。
前年、及び前々年の勝ち馬ノボトゥルーとウイングアロー、ドバイワールドカップ2着のトゥザビクトリー、芝でもダートでも走る異能のサラブレッド、アグネスデジタル。
その中央のエリート達に、地方から殴り込みをかけたのが『南関の怪物』トーシンブリザードである。
ジョッキーも、武豊、オリビエ・ペリエ、四位洋文、岡部幸雄、横山典弘と、これまた一流どころがズラリと並ぶ。
トーシンブリザードの鞍上は船橋の至宝石崎隆之だか既に46歳のロートルだ。
垢抜けない風貌と合いまって、例えるなら、歳を喰ってから都会に出稼ぎに来た、田舎のおとっさんと云う風情を漂わせていた。
某メーカーで軽く扱われてストレス満載のマスターが、トーシンブリザード&石崎隆之に我が身を重ね合わせて激しく応援するのは、いたって判り易い構図なのである。
トーシンブリザードは、アグネスデジタル、ノボトゥルー、トゥザヴィクトリーに続く4番人気で、単勝が6.2倍。
購入馬券は勿論トーシンブリザードの単勝一本5万円勝負で、中央のエリートを蹴散らして勝てば30万越えなのだが…….。
「さ〜!鉛色の空を切り裂く16頭!直線に向いた!先頭はノボジャック!トゥザヴィクトリーが音もなく近寄って来るぞ!外からアグネス!外からアグネス!残り200mを通過する!」
最後の直線で先頭に立ったトゥザヴィクトリーと武豊。
その外から四位洋文のアグネスデジタル。
更にはトーシンブリザード。
「石崎!いわせ!いわしちまえ!」梅田ウインズで絶叫するマスター。
「アグネス!アグネス先頭!その外から来た!来た!トーシンブリザード!トーシンが差を詰める!アグネス!トーシン!アグネス!トーシン。勝ったのはアグネスデジタル〜!」
トーシンブリザード、石崎隆之渾身の追い込みも届かずの2着。
「やっぱ勝てなかったか。でも良く頑張ったじゃねえか。立派だぜ」と誰ともなく呟いたマスター。
「サラリーマンは気楽な稼業と来たもんだ〜」と唄ったのは故植木等だが、最後は我慢、辛抱の繰り返し。
サラリーマン川柳じゃないが、切ない想いを胸に、その2年後、長きに渡ったサラリーマン稼業から脚を洗う事になる。
鬼の形相で追い込む石崎隆之とトーシンブリザード。
マスターにとって忘れられない『フェブラリーS』なのである。