『人の口に戸は立てられない』
昔の人は上手い事を云ったもんである。
マスターが中坊だった頃、勉強も出来て、スポーツも万能。
容姿がこれまた仰け反るぐらい美しい女子中学生が同学年にいた。
女生徒の憧れの的であり、男子生徒は恋心を抱く者が続出。
周りにはオーラが匂いたっていたのだが……..。
「慶子ちゃんが、テニス部のキャプテンと手を繋いで歩いてた」
そんな噂が流れたのが騒動の発端。
「いや!キスしてた。不純異性交友だ」
噂はエスカレートして1人歩き。
生徒間だけでなく、教師、父兄も巻き込んでの事態に発展したΣ(゚д゚lll)
今なら、それがどうした!ぐらいの事が、当時は大問題になったのである。
憧れの的から一転、「いやらしい」とか「不潔」とかの悪評に晒された慶子ちゃん。
イメージが一気に地に落ちてしまった。
「マスター、『有馬記念』は何を買うんですか?」
「いや〜難しいな。内枠の人気薄も怖い。リアファルの逃げ残りも、ゴールアクター隼の一世一代の大仕事があるかも………」
「早く決めてくださいよ!」
「◯原さん、早くったって暮れの大一番。どの馬も全力投球よ。歩く馬は一頭もいねえんだ。もっともあれも怖い!これも怖いじゃ馬券にならねえもんな〜。まさか3連単7頭BOX210点張りする訳にもいかま〜が」
マスター完全に頭を抱えてしまっていたが、馬柱を穴の空くほど見て出した結論は3歳牝馬ルージュバックだ。
3連勝で牡馬混合『きさらぎ賞』をぶっこぬいた天才少女。
それが『桜花賞』ではまさかのボロ負けで、雪辱を期した『オークス』でもミッキークイーンに、イチコロパンでオソボにされてしまった。
以後、体調不良が続き『秋華賞』には登録も出来ない体たらくで、評判は地に落ちた。
「『エリザベス女王杯』のレースを見ただろ。あれだけ長期の休養明け。仕上がりがもう一息でもしっかり突っ込んで来た。やっぱ能力は一級品よ。斤量の53キロは裸同然さ。
我がJAPANのリーディング圭太も半端ねえ気合いと聞いている。ここは一番ルージュバックと圭太に賭けてみる!◯原さん、オッズプリーズ」
「単勝が前売りで5番人気の10.3。複勝が3.0ー4.0です」
「複勝で上等!上等!福島上等カレーよ。いてこましたらんかい」
今なら人権問題まで発展するほどの事態に翻弄された慶子ちゃん。
「きっといいお母さんになって幸せに暮らしているに違いねえ!」とマスター。
口さえ聞いた事はなかったが、甘く切ないノスタルジーを、ルージュバックと重ね合わせて今年最後の勝負だ!
戸崎J!エスコート宜しくお願い致しまス!