「あらやだ!何?何?手をどけてよ。どけなさい」
神霊スポットで拝むポーズを繰り返す。
自分に手がまとわりついて離れないんだと云う。
バット!全然手なんて見えやしない。
我がJAPANで最高の霊能者と云われた故宜保愛子ちゃん堂々の登場だ。
「ふざけやがって!冗談じゃねえぜ。何にも映ってないじゃんか」
文句をブチブチ云いながら、気が付けばスペシャル2時間ビッチリ見てしまったマスター。
オツムが少し弱いので、テレビ局の思うつぼだ。
番組に結論はない。
なんせ、見えているのは宜保愛子ちゃんだけなんだから。
一時期、そんな番組がスペシャルと称して頻繁に放送されていた。
この手の番組は日本テレビが得意中の得意。
もしあれが宜保愛子ちゃんの1人芝居だとしたら、アン•ハサウェイもビックリ。
アカデミー賞クラスの熱演だ。
死後の世界や霊なんてある訳ないが持論のマスターだが、それでも、世の中には理屈で説明付かない事はあるようで………。
おしどりご夫婦で有名な京都馬主協会会員Tさんの小別け2歳馬が、入厩直前外厩の火事で亡くなった。
するとあら不思議。
2戦連続最下位であがいていた馬が、恐ろしい勢いで走りだした。
6月6日の未勝利で3着に突っ込んだレースから中1週。
見事!未勝利を勝ち上がり。
ここまでは、まあ〜ダートが合わなくて芝に戻して走ったなんて説明も付くのだが……….。
「Tさん菊花賞出走おめでとうございます」
「ありがとう。まさか6月に未勝利を勝ち上がった馬がここまで来るとはね〜」
「本当ですよ。長い間競馬見てますが、こんな事は滅多にないです。いやほとんど記憶にございません」
ロッキード事件で国会証人喚問を受けた大久保某や、よっしゃ、よっしゃの今太閤、角栄さんみたいな発言をするマスター。
未勝利を勝ち上がり、、500万2着を挟んで、夏の小倉500万特別、1000万特別を連勝!
G2セントライト記念では、並み居る強豪とまみえて9着。
見事G1菊花賞出走の運びとなった。
着順は別として、出走するだけでも名誉な事である。
最近は、長距離のレースに対する評価が下がっているが、個人馬主さんで菊花賞に出走した馬主さんが、どれくらいおいでかと考えれば……..。
「Tさん、戯言だと思って聞いてくださいよ。これはひょっとして、火事で死んだ2歳の魂が乗り移ったんじゃないですかね?」
「マスターもそう思うか?僕もそんな気がしてるんだ。人に云ったら笑われるかも知れないけど」
菊花賞の日の馬主席でマスターとTさんとの会話を、横でウン、ウンと頷く奥様。
心なしか目元ウルウルだ。
ミキノバンジョー号。
49戦7勝2着3回。
霊なんてと馬鹿にしていたマスターの石頭をコツンと叩いたお馬さん。
ニャンとも凄い馬だ!
次回『口取り物語』は「応援の作法」です。
皆様、お付き合い、宜しくお願い致します。