北新地競馬交友録

『口取り物語』VOL4 わしが行ったら負ける その1

競馬と云うのは人智を超えた運の部分がある。
例えば、先日行われた、日本一の乙女を決める闘い『オークス』では、優勝したミッキークイーンと、最下位との差が2.5秒。
2400m走って、秒針がカチ、カチ、カぐらいの開きしかない訳だ。
ウサインボルトと小学生が走るなら、何回走ってもウサインボルトの圧勝だが……….2.5秒の差……..もう一回走ったら何とかなるんじゃないの?
まして、その間の0.1秒だ、0.2秒だって瞬きをする間もない差の馬主さんは………….。
「こりゃ〜運を引き寄せるしかない」
多くの馬主さんが験を担ぐのは、そんな理由もあるんじゃないかと思う。

「◯◯さん、また玉五郎ですか?」
「もちろんやがな。煮干しラーメンを食べたら安心や」
マスターのBARの目と鼻の先にあるラーメン屋『玉五郎 北新地店』が、馬主さん達で押すな!押すな!の大盛況と云うのはオーバーだが、一時期ブレイクした。
事の始まりは某馬主さんが『Palms』の帰りに『玉五郎 北新地店』で煮干しラーメンを食べたら、「あら不思議!」全然人気がないのに愛馬が勝っちゃった。

それを聞きつけた馬主さん仲間が『玉五郎』でラーメンを食べると、これが走る!走る。
優勝はもとより、人気薄の馬でも、やれ「3着だ」「掲示板だ」「8着は死守したぜ!」てな塩梅だ。
因みに馬券では3着以下だと、何のリターンもないが、馬主さんは8着以内だと賞金が、9着以下は出走手当のみ。
3歳未勝利クラスで1着賞金の4%が8着なら出る。
金額にして20万。

「馬主さんやってる人は大金持ちばっかでしょ、20万なんて屁でもないんじゃないですか?」って?
チッ!チッ!チッまるで判ってない。
例えば北新地の本通りを歩いてる見知らずの人に、「20万貸してくんない?」なんて云った日にゃ、あっと云う間にボリスメンのお世話に成るのは必至。
誰も20万どころか、2千も貸しちゃあくれないそれが世の習いだ。

厩舎に入れて、毎日美味しいご飯を食べさせていたら、レースで最後方をスキップしながら走っても、馬場掃除をやってても、ひと月50万〜60万がとこは黙って飛んで行く。
50万ありゃ、安くて美味しいと評判の焼肉屋『大番』なら、貸し切り食べ放題、飲み放題まである。
『男はつらいよ』の寅さんじゃないが、馬主さんはつらい。
そりゃ〜験を担ぎたくなるのは人情だ。

靴下の色。
ネクタイの色。
下着の色。
スーツの色。
験担ぎの基本、カラーカルテットはもとより、飲み食いする店にもこだわる。
いくら、かぶりつきたくなるような、すこぶるつきの美人ホステスがいようと、愛馬の成績が悪ければ、「あの店はアカン!2度と行かん」となるんだから、店の方もこれまたつらい。

損得だけ考えたら馬主さんなんて………..。
もちろんプラスで、「今年はナンボ税金払わんとアカンかな〜?」そんな贅沢な悩みを抱えておられる方もおいでだが、10年スパンで見れば、そんな方はウルトラマイノリティだ。
「どうだ!俺の馬は強いやろ」ウィナーズサークルで堂々と胸を張りたい。
マニーの事は天井裏に置いといて、たまにはそんな事でもなきゃ、いくら馬が好きだからって、馬主やってられっか!なんてもんだってさ。

マスターがお世話になっている某馬主さんは、験担ぎのためにその楽しみを封印した。
その話しは、また、明日!