北新地競馬交友録

『口取り物語』VOL3 ミホノブルボンの背に乗って その2

以前NHKスペシャルで『臨死体験 立花隆 思索ドキュメント 死ぬ時心はどうなるのか』を放送していた。
マスターのママン芳子ちゃん83歳。
お迎えが近いとあってTVに釘づけ。
それを見ていたマスターが「やめとけ!やめとけ、全く持って意味ねえよ。人間は死んだら無だ」
「天国とか地獄はあると思うわ」
「ある訳きゃねえだろが、第一そんなもんがありゃ〜俺はどうなんだよ。延々針の山でヒイヒイ云わなきゃなんねえじゃん」
閻魔さんに裁かれる前に自らギルティ宣言だ(笑)

お世話になっている馬主さんのご家族に「熱血小林徹Jがスタートさえ決めれば、オイデ!オイデの大楽勝。相手が抜けたら熱いから単勝で勝負だ」とレクチャー。
マスター!大丈夫か?と思われたが、ナンノ、ナンノ、南野陽子。
ポン!とゲートを出て「そのまま!そのまま!八坂神社まで走ってもそのまま〜」
4番人気何するものぞ、790円も付いたってんだから、マスターもやる時はやる。
2着、3着が人気薄の小坂Jと幸四郎J。
「ね!弟さん。だから云ったでしょ。この時期の3歳未勝利戦はヒモに何が来るかなんて判かんないんだから」と胸を張って大威張り。

ご一党様を引き連れて口取りに向かうマスター。
京都競馬場の一階の通路は判りにくいが、馬主でもなんでもないくせに、口取りの数なら京阪神チャンピオンクラス。
スムーズに検量室前に到着、そこに立っていたのが………………。
馬主さんと一言三言交わしているのが終わるやいなや突撃。
「先生!おめでとうございます。素晴らしい仕上げでございましたね。さすがダービージョッキーです」
「……………………」

思いっきり握手され、しかも手を離そうとしないもんだから、これには調教師さんも困った。
マスターにとっては、恋い焦がれた憧れの方だが、調教師さんにとってはどこの馬の骨とも判らないただのおじさんだ。
ウィナーズサークルに向かう途中でも、パピーのようにまとわりつくマスター。
口取り写真では、さすがに遠慮して調教師さんの横には並ばなかったが、後ろ45度のベストポジションを確保。
ダービー勝利インタビューの時と同じく、表情一つ変えない調教師さんの後ろで満面の笑みを浮かべていた。

「先生!次はどこ使いますか?阪神の1600なら勝ち負け出来ると思うんですが………」
「…………………..」
必死で話しかけるマスター(≧∇≦)
「次の口取りの時も必ず来ますから、先生!顔覚えておいてくださいよ」
「………………….」
「もう一度握手させてください!萌え〜」
「………………….」
バット、残念ながらその機会は永遠に訪れる事はなかった。

ミホノブルボン。
遅咲きの苦労人を乗せて、東京競馬場のターフを駆け抜け頂点を極めた。
8戦7勝2着1回。
唯一の2着は距離の壁に挑んだ菊花賞だ。
現在は26歳。
人間で云えば、故泉重千代さんも腰を抜かすぐらいの長寿。
そう遠くない将来、一足先に天国に旅だったダービージョッキーを背に、草花が咲き乱れる草原を走っていると信じたい。

マスター!天国はあんじゃないの!


次回『口取り物語』は「ワシが行ったら負ける」
お楽しみに!