『喝采』 by ナオミ チアキ
いつものように幕が開き
恋の歌うたうわたしに
届いた報らせは 黒いふちどりがありました
あれは三年前 止めるアナタ駅に残し
動き始めた汽車に ひとり飛び乗った
ひなびた町の昼下がり
教会のまえにたたずみ
喪服のわたしは 祈る言葉さえ失くしてた
つたがからまる白い壁
細いかげ長く落として
ひとりのわたしは こぼす涙さえ忘れてた
暗い待合室 話すひともないわたしの
耳に私のうたが 通りすぎてゆく
いつものように幕が開く
降りそそぐライトのその中
それでもわたしは
今日も恋の歌 うたってる
昭和歌謡最高傑作の一つ『喝采』を作曲した中村泰志が、この暮れに逝った。
僅か発売3ヶ月で『日本レコード大賞』をゲットし、今もって人々の心の奥深いところに、しっかりと根をおろしている。
『ことバンク』によると喝采とは、「ほめたてる・しきりにほめる」とある。
我がJAPANが未曾有の危機に襲われたのは少々年季の入った人ならば、昭和の『阪神大震災』と、平成の『東日本大震災』。
そんな時に、荒んだ心に少しばかりの元気をくれたのがスポーツだ。
『阪神大震災』の年は、流行語大賞にも選ばれた「がんばろうKOBE」のオリックス。
『東日本大震災』の年は、ワールドカップを劇的な勝利で制した「なでしこJAPAN」。
その素晴らしい闘いぶりに日本国中が喝采を送った。
本来なら、今年は、『2020東京オリンピック』で、アスリート達に喝采を送るはずだったのだが………..。
『新型コロナウイルス禍』。
肝の座ってない対応で、火だるまのガースー政権。
ひたすら煽って視聴率や、部数を伸ばそうとしているマスコミ。
それを受け分断された人々が、自分と違う意見をこきおろし、謂れのない偏見で感染者や医療従事者を差別している。
自らの身を守る事にのみに汲々として、冷静に判断を下す行為を放棄してしまっているのだ。
このままでは国が滅びる、いや滅びなくても三等国に成り下がると焦る心しかないが、無念な事に個人の力ではどうしようもない。
週一回のおたのしみNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の信長風に云うならば、「是非に及ばず」。
今日もまた、電車が止まるのであろうか。
はたまた、返済不可能な負債を抱えた人々が、弁護士の門を叩くのであろうか。
ただただ閉塞感に苛まれる年の瀬なのである。
「マスターさん、おはようございます。もう『有馬記念』ですか。早いですね。』は、熊本天草出身○原さん。
「ああ、コロナ野郎と追っかけっこしていて、気が付いたら終わりだ。それしても今年はろくな事が無かった。トドメは11月の後半から店を休業するしかなく、プー太郎の一丁上がりとは。せめて、競馬で大儲けでもしてりゃ〜別だが全然当たらねえし。先週も将雅が頼んでもいねえのに頭だとョ。てめ〜は何をやっとるんなら、そんな馬で勝てるならクリソベリテで勝て!ちゅ〜の。今まで、豊にもプリンスにも大概裏切られたが、将雅ほど酷い奴はいねえョ。」と、伝統芸能と揶揄されるいい泣きが朝から入っている。
「まあ、まあ。終わり良ければ全て良し。『有馬記念』でいいところ見せてください。」
「それはヤマヤマ世界の山ちゃんだが、軸を友のクロノジェネシスにするか、ルメ公のフィエールマンにするかで悩んでんだ。今の中山はタフな馬場だから牝馬ながらスタミナ十分のクロノジェネシスにすっか。3連複!クロノジェネシス一頭軸、相手内から中山巧者、今年メキメキ腕を上げた武史のブラストワンピース、グラマラスボディー!プリンスのラッキーライラック、勝負師謙一のカレンブーケドール、イヤイヤ将雅のオーソリティ、もちろんルメ公のフィエールマン。相手5頭10点張り一目5千。」
「また3連複ですか?お得の枠連の方がいいんじゃ?」
「慌てるな!慌てる何とかは貰いが少ねえと云うだろう。3連複に追加で枠連!5ー7が本線で2万と5千、5ー5ゾロ目のまっちゃんが1万。1ー5、4ー5、5ー6を平に5千でいてこます。」
「10万円も買うんですか!せっかく5万円で我慢して来たのに。もしクロノジェネシスがお隠れあそばしたら正月迎えられませんよ。」
「たわけ!業務スーパーでサトウの切り餅とカップ麺をたんと買い込んである。」
「寂しい正月ですね。」
「贅沢云うんじゃねえ!コロナ野郎のせいで、東京じゃ〜公園の炊き出しに並んでいる人がえっとおられるんだ。」
「……………………..」
新型コロナウイルス禍で、喝采のかの字も聴こえて来なかった2020年。
「クロノジェネシス!あんたは偉い!」と、マスターの声が木霊すれば、少しだけでも救われるのだろうが………….さて。